
ジョブ・カードとは?従業員のキャリア形成と人材育成への活用方法
受付時間:月〜金 9:00〜18:00

10月は「年次有給休暇取得促進期間」です。
厚生労働省は、年次有給休暇を取得しやすい環境づくりを促進しています。
2024年の年次有給休暇取得率は66.9%となり、過去最高を記録しました。一方、政府が掲げる2028年までの目標は70%であり、引き続き取得促進に向けた取り組みが求められています。
従業員の健康やワーク・ライフ・バランスを考えれば、年次有給休暇を取得しやすい環境を整えることは重要です。
しかし、中小企業の経営者にとっては、簡単には解決できない問題もあります。
「人手が足りず、従業員が休むと仕事が回らない」
「特定の従業員に仕事が集中している」
「休暇の取得を勧めても、なかなか申請してくれない」
こうした悩みを抱えている経営者の方もいるのではないでしょうか。
年次有給休暇の取得促進は、単に従業員に休暇を取るよう呼びかければ解決する問題ではありません。
従業員が安心して休める職場をつくるために、経営者は何に取り組めばよいのでしょうか。
今回は、三つの視点から考えます。
まず考えたいのは、従業員が有給休暇を取得できない理由です。
例えば、次のような状況はないでしょうか。
– 特定の従業員しか担当できない業務がある
– 業務量が多く、休むと仕事が滞ってしまう
– 休暇中に対応できる人がいない
– 上司や同僚に気兼ねして、休暇を申請しにくい
– 休暇を取得することに、否定的な雰囲気がある
これらは、似ているようで、それぞれ異なる問題です。
業務量が多いのであれば、人員配置や業務の進め方を見直す必要があるでしょう。
特定の従業員に仕事が集中しているのであれば、業務の標準化や情報共有、複数の従業員が業務を担当できる体制づくりが必要かもしれません。
一方、休暇を申請しにくい雰囲気が問題なのであれば、制度や業務手順を整えるだけでは十分ではありません。
経営者や管理職の言動、職場の慣習なども見直す必要があります。
大切なのは、休暇の取得率だけを見て判断するのではなく、取得を妨げている要因を把握することです。
従業員に話を聞いたり、部署ごとの取得状況を確認したりすることで、これまで見えていなかった課題が明らかになることもあります。
中小企業では、一人ひとりが重要な役割を担っていることが少なくありません。
少人数で仕事を進めているため、特定の従業員が休むと業務が止まってしまう。そうした事情から、休暇の取得を勧めたくても、現実には難しいというケースもあるでしょう。
しかし、特定の従業員がいなければ仕事が回らない状態は、休暇取得だけでなく、急な病気や退職などが発生した場合にも、経営上のリスクとなります。
そこで、次のような取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。
① 業務の見える化
担当者しか知らない仕事の手順や判断基準を整理し、必要な情報を共有します。
② 業務の複数担当制
重要な業務については、複数の従業員が対応できる体制を整えます。
③ 業務の優先順位の整理
すべての仕事を従来どおりに行うのではなく、優先順位を明確にし、業務量そのものを見直します。
④ 休暇を前提とした業務計画
休暇の予定を早めに共有し、必要な引き継ぎや担当者間の調整を行います。
こうした取り組みは、従業員の休暇取得を支えるだけでなく、業務の属人化を防ぎ、組織としての対応力を高めることにもつながります。
ただし、業務を複数担当制にするだけで、一人ひとりの負担が増えてしまっては意味がありません。業務量や人員配置も含めて、無理なく運用できる仕組みを考えることが重要です。
制度を整え、業務の調整ができるようになっても、従業員が休暇を申請しにくい雰囲気が残っていれば、取得は進みにくいでしょう。
例えば、上司が休暇を申請した従業員に対して、何気なく「忙しいのに休むのか」といった言葉をかけていないでしょうか。
あるいは、休暇を取得した従業員が、出勤後に周囲へ過度に謝罪しなければならない雰囲気はないでしょうか。
経営者にそのつもりがなくても、日頃の言動が従業員に影響を与えている可能性があります。
職場の雰囲気を変えるためには、まず経営者や管理職が、休暇を取得することを肯定的に捉える姿勢を示すことが大切です。
そのうえで、次のようなことに取り組んでみましょう。
– 経営者や管理職自身が、適切に休暇を取得する
– 休暇の申請や調整について、職場内で共通のルールを設ける
– 休暇を取得した従業員に不利益な扱いや不必要な気兼ねを生じさせない
– 休暇を取得しにくいと感じている従業員の声を聞く
特に重要なのは、従業員の声を聞くことです。
休暇を取得できない理由は、経営者が想像しているものとは異なるかもしれません。
「業務が多いから休めない」と考えていたら、実際には「同僚に迷惑をかけたくない」という気持ちが強かった、ということも考えられます。
反対に、本人は休暇を取りたいと思っていても、担当業務の調整が難しく、どうにもならないという場合もあるでしょう。
従業員の声を聞き、実際の状況に合った対応を考えることが、職場環境の改善につながります。
職場の環境整備と併せて、制度の活用も検討してみましょう。
厚生労働省は、年次有給休暇の取得促進に向けた取り組みとして、主に次の制度を紹介しています。
年次有給休暇の計画的付与制度
労使協定を締結することで、年次有給休暇のうち、従業員が自ら請求・取得できる5日を残した部分について、計画的に取得日を割り振ることができる制度です。
例えば、夏季や年末年始の休業に合わせたり、会社独自の休日と組み合わせたりする方法が考えられます。
事前に取得日を決めておくことで、業務の調整や休暇の計画を立てやすくなることが期待できます。
時間単位の年次有給休暇
労使協定を締結することで、年5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を取得できる制度です。
一日単位で休むことが難しい場合でも、通院や家庭の用事など、必要に応じて柔軟に休暇を活用できるようになります。
ただし、時間単位の年次有給休暇は、年5日の取得義務における取得日数には算入されません。
また、年次有給休暇が10日以上付与される従業員については、原則として、付与日から1年以内に5日を取得させる義務があります。従業員自身による取得や計画的付与なども、この5日の取得実績に算入されます。制度の対象者や管理方法を確認し、適切に運用しましょう。
制度の詳細は、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」で確認できます。
– 年次有給休暇取得促進特設サイト(事業主の方へ)
年次有給休暇の取得促進というと、取得率や取得日数といった数値に目が向きがちです。
もちろん、取得状況を把握し、必要な改善を行うことは重要です。
しかし、取得率を高めることだけが目的になってしまうと、なぜ従業員が休暇を取得できないのかという、根本的な問題を見落とすおそれがあります。
業務の進め方に問題があるのか。
従業員に負担が集中しているのか。
職場の人間関係や雰囲気に課題があるのか。
こうした問題を一つずつ確認していくことは、組織のあり方を見直すことでもあります。
また、従業員がどのような働き方を望んでいるのか、仕事と生活をどのように両立したいと考えているのかを知ることも大切です。
経営者が組織として実現したいことと、従業員一人ひとりが大切にしたいこと。その両方に目を向けながら、無理なく働き続けられる職場をつくっていく必要があります。
年次有給休暇の取得促進は、そのための一つのきっかけになります。
10月の取得促進期間を機会に、自社の休暇取得状況を確認するとともに、従業員が安心して休める職場になっているか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
従業員が休める職場をつくることは、従業員を大切にすることであると同時に、組織のあり方を見直すことでもあります。