
世界メンタルヘルスデーに考える、働く人の心と職場のあり方
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10月10日は「世界メンタルヘルスデー」です。
世界メンタルヘルスデーは、メンタルヘルスへの理解を深め、心の健康に関する偏見をなくすことなどを目的に定められた国際デーです。
2026年のテーマは、当事者の体験に耳を傾け、その声を本当の変化につなげることです。本人の経験や思いを尊重し、支援のあり方や意思決定に反映させることの重要性が示されています。
このテーマを、私たちが働く職場に置き換えて考えてみたいと思います。
従業員が安心して働ける職場をつくるために、企業には何ができるのでしょうか。
職場のメンタルヘルス対策というと、ストレスチェックや休職・復職への対応、相談窓口の設置などを思い浮かべる方も多いでしょう。
これらはいずれも大切な取り組みです。
一方で、働く人の心の健康を考える際には、不調が表面化したときの対応だけでなく、日々の仕事や職場環境が、一人ひとりにどのような影響を与えているかにも目を向ける必要があります。
例えば、次のような状況はないでしょうか。
– 仕事の負担が大きく、十分に休息を取れない。
– 上司や同僚との関係に悩んでいても、誰にも相談できない。
– 自分の仕事が何の役に立っているのか、実感できない。
– 能力や経験を生かせず、仕事への意欲が低下している。
– 今後の働き方に不安があるものの、相談する機会がない。
もちろん、こうした状況がすべて心の不調につながるわけではありません。しかし、仕事の負担、人間関係、役割への納得感、将来への不安などは、働く人の心の状態と無関係ではありません。
メンタルヘルス対策を考えるときには、個人のストレス対処能力を高めることに加え、ストレスの背景にある職場の状況にも目を向けることが大切です。
職場で問題が起きたとき、経営者や管理職は、原因を考え、解決策を見つけようとします。
それは組織を運営するうえで欠かせない姿勢です。
しかし、問題を解決しようとするあまり、本人が何を感じ、何に困り、どうしたいと思っているのかを十分に確認しないまま、対応を決めてしまうことはないでしょうか。
例えば、仕事への意欲が低下している従業員がいたとします。
上司は「もっと前向きに取り組んでほしい」と考えているかもしれません。一方、本人は「仕事の進め方を相談できない」「自分の得意分野を生かせない」「期待されている役割が分からない」と感じているかもしれません。
同じ状況でも、本人と周囲では見えているものが異なることがあります。
その違いを確かめずに対策を講じても、問題の本質に届かない可能性があります。
だからこそ、まず本人の話を聴くことが重要です。
話を聴く際には、すぐに助言したり、正しい考え方を教えたりする必要はありません。本人の感じていることを理解しようとし、何に困っているのか、何を大切にしたいのかを一緒に整理していくことも、意味のある支援です。
ただし、話を聴くことは、本人の希望をすべてそのまま実現することとは異なります。本人の思いを理解したうえで、職場として何ができるのかを考えていくことが大切です。
本人の声を聴くことが重要だとしても、話を聴くだけで職場の問題が解決するわけではありません。
例えば、複数の従業員が業務量の多さを訴えている場合、個々の従業員にストレス対処法を伝えるだけでは、根本的な解決にならない可能性があります。
仕事の進め方や役割分担、業務量、人員配置などを見直す必要があるかもしれません。
また、上司との関係に悩む従業員がいる場合、本人の受け止め方だけに原因を求めず、指示の出し方やコミュニケーションのあり方についても考える必要があるでしょう。
大切なのは、本人の問題と組織の問題を切り離しすぎないことです。
一人ひとりの感じ方や考え方を理解すること。そして、その人が働く環境や周囲との関係にも目を向けること。この両方があってこそ、より適切な対応につながります。
もちろん、個人の相談内容をそのまま組織に伝えてよいわけではありません。相談者のプライバシーや守秘義務に配慮し、本人の同意や適切な情報共有の手続きを踏まえながら、必要な改善につなげることが重要です。
私たちは、仕事を通じて収入を得るだけでなく、能力を発揮したり、人とのつながりを感じたり、自分の成長を実感したりすることもあります。
一方で、自分に合わない仕事や職場環境、人間関係、将来への不安などが、働くことへの悩みにつながる場合もあります。
ここで考えたいのが、メンタルヘルスとキャリアの関係です。
キャリアという言葉から、昇進や転職、資格取得などを思い浮かべる方もいるでしょう。しかし、キャリアは、そうした目に見える出来事だけではありません。
自分はどのように働きたいのか。何を大切にしたいのか。どのような仕事なら、自分の力を発揮できるのか。
こうしたことを考え、自分なりの働き方を見つけていくことも、キャリアを考えるうえで大切です。
職場で悩みを抱えている人に対して、すぐに「頑張ろう」「考え方を変えよう」と伝えるのではなく、まずは本人の思いや置かれている状況を理解する。そのうえで、必要に応じて仕事の進め方や周囲との関係、今後の働き方を一緒に考える。
このような関わりは、メンタルヘルスへの配慮であると同時に、キャリアを支えることにもつながります。
ただし、キャリアについて考えることが、すべての心の不調を解決するわけではありません。医療的な対応や専門的な支援が必要な場合には、それぞれの状況に応じた支援につなぐことも欠かせません。
中小企業では、経営者と従業員の距離が近く、日々の様子を把握しやすいという面があります。
一方で、人数が少ないために業務を代わる人がいなかったり、相談できる相手が限られていたりすることもあります。経営者や管理職自身が多くの役割を担い、従業員一人ひとりとじっくり話す時間を確保しにくい場合もあるでしょう。
そのため、大企業と同じ仕組みを整えることだけが正解とは限りません。
まずは、日常のコミュニケーションを見直すことから始めてもよいと思います。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
– 定期的に話を聴く機会を設ける。 業務の進捗確認だけでなく、困っていることや今後の希望についても話せる時間をつくる。
– 相談しやすい環境を整える。 困ったときに誰に相談できるのかを明確にし、相談したことによって不利益を受けないという安心感を育てる。
– 仕事の負担や役割を見直す。 個人の努力だけに頼らず、業務量や役割分担、仕事の進め方を検討する。
– 社内だけで抱え込まない。 社内で相談しにくい場合には、外部の専門家や相談窓口を活用する。
こうした取り組みは、一度実施して終わりではありません。従業員の声を聴き、必要な対応を考え、その結果を振り返る。その繰り返しが、より働きやすい職場づくりにつながります。
世界メンタルヘルスデーをきっかけに、改めて考えたいことがあります。
それは、働く人の心の健康を守ることと、働く人の声を職場づくりに生かすことは、別々の取り組みではないということです。
本人が何に困り、何を大切にし、どのような働き方を望んでいるのか。その声に耳を傾けることは、一人の従業員を理解することにつながります。
そして、そこから見えてきた課題を組織として検討することは、職場環境や仕事の進め方を見直すきっかけにもなります。
従業員が安心して働き、自分の力を発揮できることは、本人にとってだけでなく、組織にとっても大切なことです。
個人の思いと組織の期待は、いつも一致するとは限りません。だからこそ、互いの考えを理解し、よりよい関係をつくっていくための対話が必要なのだと思います。
世界メンタルヘルスデーに、まずは身近な人の声に耳を傾けることから始めてみませんか。
当社では、キャリアコンサルティングとメンタルヘルス支援を通じて、働く人が自分らしく働き、力を発揮できるよう支援しています。
企業に対しても、従業員一人ひとりへの支援に加え、人と組織の間に生じている課題を整理し、よりよい関係づくりに向けた取り組みを支援しています。
従業員との対話や相談体制、職場の人間関係、今後の人材活用などについてお悩みの企業の皆さまは、お気軽にご相談ください。