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リスキリングだけで社員は成長するか?技能の日に考えたい、人材育成に必要な視点

11月10日は「技能の日」です。また、11月は「人材開発促進月間」とされ、職業能力の開発や技能の振興について考える機会となっています。

人材不足や事業環境の変化が続くなか、企業にとって、社員の能力開発は重要な経営課題の一つです。近年は「リスキリング」という言葉も広く使われるようになりました。

新しい技術を学ぶ。デジタルに関する知識を身につける。仕事に必要な資格を取得する。こうした取り組みは、社員の能力を高め、企業の成長を支えるうえで大切です。

しかし、社員の成長を考えるとき、身につけたスキルの数や種類だけに注目していてよいのでしょうか。

今回は、技能の日をきっかけに、社員の能力開発について少し違った角度から考えてみたいと思います。

リスキリングは、スキルを身につけることだけが目的ではない

リスキリングは、事業環境や仕事の変化に対応するため、新たな知識やスキルを身につける取り組みです。世の中の変化や技術の進歩が速くなる現代社会においては、大人になってからでも、全く新しいスキルを身につけることが欠かせなくなりました。

つまり、企業が新しい事業に取り組むとき、業務のデジタル化を進めるとき、あるいは働き方や顧客ニーズが変化するとき、社員にも新たな能力が求められます。そのため、研修や資格取得、実務を通じた学習など、さまざまな方法で能力開発を進めることになります。

ただし、研修を受けたことや資格を取得したこと自体が、仕事の成果を保証するわけではありません。

学んだ知識をどのような場面で活用するのか。目の前の課題に対して何を優先するのか。複数の選択肢からどの方法を選ぶのか。こうした判断や工夫も、仕事の成果を左右します。

つまり、能力開発を考える際には、何を学ぶかだけでなく、学んだことを実際の仕事でどう生かすかという視点が欠かせません。

仕事にはスキルだけでなく、センスも必要

この点を考えるうえで、私が参考にしているのが、経営学者の楠木建先生が論じている「スキル」と「センス」の違いです。

楠木先生はまず、スキルとセンスの違いを次のように解説されています。

– スキル:お金を払えば手に入れることができるもの(研修などを受けることで獲得できるもの)
– センス:お金を払っても手には入らず、自分で磨くことによってのみ得られるもの

さらに、スキルとセンスと仕事との関係を、次の式で表しています。

仕事 = スキル × センス

つまり、仕事をするためには、

– スキルとセンスの両方が必要である
– スキル、センスともにある程度(1以上)でないと、成果においてむしろ悪い結果になる

ということです。

少し考えてみると、とてもわかりやすいものであることに気づけます。

例えば、同じ知識や技術を持っていても、目の前の状況に応じて適切に使える人と、学んだ手順をそのまま当てはめようとする人とでは、仕事の進め方に違いが生まれることでしょう。

マニュアルに書かれていない問題が起きたとき、顧客が言葉にしていない要望をくみ取るとき、複数の仕事の優先順位を決めるとき。

そこでは、知識や技術に加えて、状況を捉え、自分なりに考え、判断することが求められます。それらは、センスが問われるものではないでしょうか。

そして、センスは生まれつきの才能で決まる部分もあるのかもしれませんが、自分で磨いて獲得できるものでもあることを、少し考えてみる必要があるのではないでしょうか。

では、スキルを自分で磨くためには、何が必要なのでしょうか。楠木先生は、その答えが「好き嫌い」にあることを強調しています。

社員の「好き嫌い」にも目を向ける

楠木先生がおっしゃる「好き嫌い」は、「良し悪し」の対概念とされています。「良し悪し」には関係する人たちの間で共通の理解や価値観が存在しますが、「好き嫌い」には共通の理解や価値観があるとは限りません。つまり、人それぞれだということです。

それでは、なぜ「良し悪し」よりも「好き嫌い」を重視するのでしょうか。それは、スキルは自分で磨かなければならないものである以上、誘因(インセンティブ)よりも動因(自分がやりたいと思うこと、つまり好きなこと)が必要だからです。

組織での仕事においては、成果や能力を評価することが必要です。しかし、それだけでは、その人が真にどのような仕事に関心を持ち、何に意欲を感じるのかまでは分かりません。他の人よりうまくできたから、成果が出たからといって、必ずしもその人が好きだと思っている仕事とは限りません。

例えば、人と話しながら相手の考えを整理することが好きな人もいれば、数字を分析し、問題の原因を突き止めることが好きな人もいます。新しいことを考えるのが好きな人もいれば、決められた手順を改善し、仕事を確実に進めることにやりがいを感じる人もいます。

こうした違いに、単純な良し悪しはありません。

本人が何に関心を持ち、どのような仕事に意欲を感じるのか。つまり、その人の好き嫌いを理解することは、その人の能力を生かせる仕事や、今後伸ばしていきたい能力を考える手がかりになります。さらに、「好きなこと」は動因となり、外から促されなくても自ら強い推進力を発揮できるものなのです。

しかし、これは「好きなことだけを仕事にすればよい」という話ではありません。仕事には責任があり、本人の好みだけで業務を決められるわけでもありません。

それでも、本人の関心や意欲を無視して、会社が必要とするスキルだけを一方的に身につけさせようとすれば、学ぶことが本人の成長や仕事の充実につながるとは限らないでしょう。

まずは社員の「好き嫌い」を知ることが、本人の希望を何でもかなえるためではなく、その人の持ち味と会社の期待をつなぐための手がかりになるはずです。

会社が求める能力と、社員が生かしたい能力をつなぐ

企業には、事業を継続し、顧客に価値を提供するために必要な能力があります。一方、社員にも、それぞれの関心や得意なこと、今後取り組みたいことがあります。

この二つが重なる部分を見つけ、伸ばしていくことができれば、能力開発は単なる研修や資格取得にとどまらず、仕事への意欲や成長にもつながっていくでしょう。

たとえ両者に重なりが見いだせなかったとしても、どのように調和させられるのか、さらに、それを弾みにできないかを、個人と組織のそれぞれが考えることが大切です。

そのためにはまず、経営者や上司が「何を学んでほしいか」を伝えるだけでなく、社員が今の仕事をどう感じているのか、どのような仕事に関心があるのか、これから何を身につけたいと考えているのかを聴くことも大切です。

対話を通じて、会社が期待する役割と本人の関心をすり合わせる。実際の仕事を経験する機会をつくる。経験を振り返り、次の学びにつなげる。

こうした積み重ねが、社員の能力を仕事の成果に結びつけることにつながります。

技能の日を、社員の成長について考える機会に

リスキリングは、変化する時代に対応するために欠かせない取り組みです。しかし、何を学ぶかという問いだけでなく、学んだことをどう生かすか、本人がどのような仕事に関心を持っているかという問いも大切にしたいものです。

スキルを身につけること。経験を通じてセンスを磨くこと。そのためには、一人ひとりの好き嫌いや関心を理解すること。そして、それぞれの好き嫌いや関心について考えてもらう機会を提供すること。

これらを切り離さずに考えることで、一人ひとりの能力と意欲を生かす人材育成に近づけるのではないでしょうか。

技能の日をきっかけに、自社の能力開発が「何を教えるか」だけでなく、「社員の持ち味をどう生かすか」という視点からも考えられているか、振り返ってみてはいかがでしょうか。「センス」を磨くことや、その鍵となる「好き嫌い」に目を向けることも大切です。また、「好き嫌い」は、その人の過去の経験から見いだせるはずです。つまり、今までのキャリアを振り返ることです。

弊社では、個人が過去の経験を振り返り、自分の好き嫌いに気づくことや、個人の好き嫌いを組織に伝え、組織のニーズとどのように調和させていくことができるのかを考えるプロセスを支援しております。

ご興味のある方は、まずはお問い合わせください。

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自動車業界で開発業務を経験し、産業カウンセラー / 国家資格キャリアコンサルタント取得。グループアプローチによる課題解決支援も経験する。2023年にキャリアデザイン・メンタルサポート株式会社設立。静岡県を中心に企業向け人材定着・職業能力向上、メンタルヘルス支援を実施。またキャリア理論や公的機関の調査・法制度を分かりやすく解説し、企業経営者と働く人の双方に役立つ情報発信を心掛けています。

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