
女性に対する暴力が心に及ぼす影響とは?自分らしく生きるために必要な支援
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毎年11月12日から11月25日までは、「女性に対する暴力をなくす運動」の期間です。
この運動は、配偶者や交際相手からの暴力(DV)、性犯罪・性暴力、ストーカー行為、セクシュアルハラスメントなど、女性に対する暴力の根絶を目指して実施されています。
2026年度のテーマは「その不安を話すだけでもいいんです。」です。
暴力は、身体に傷を負わせるだけではありません。人の心を傷つけ、自分に自信を持てなくなったり、自分の意思で物事を決めることが難しくなったりするなど、その後の生活にも大きな影響を及ぼすことがあります。
今回は、メンタルヘルスとキャリアの視点から、女性に対する暴力が人の心や生き方に及ぼす影響について考えてみたいと思います。
女性に対する暴力には、さまざまな形があります。
例えば、次のようなものが挙げられます。
– 身体的暴力:殴る、蹴る、物を投げつけるなど
– 精神的暴力:大声で怒鳴る、人格を否定する、脅す、無視するなど
– 性的暴力:本人の意思に反する性的な行為を強要するなど
– 経済的な支配:生活費を渡さない、仕事を辞めさせるなど
– 社会的な制限:交友関係や行動を制限し、周囲との交流を妨げるなど
これらは、配偶者や交際相手との関係だけでなく、職場や社会生活の中でも起こり得ます。
特に、精神的な暴力や経済的な支配などは、身体的な暴力のように外から見て分かりやすいものではありません。そのため、本人も被害を受けていることを認識できなかったり、周囲が問題に気づけなかったりすることがあります。
また、暴力は一度の出来事だけでなく、繰り返される言動や日常的な支配によって、少しずつ相手の自由や尊厳を奪っていくこともあります。
大切なのは、目に見える傷があるかどうかだけで判断しないことです。
暴力によって傷つくのは身体だけではありません。心にも深刻な影響を及ぼすことがあります。
例えば、次のような変化が現れることがあります。
– 自分に自信が持てなくなる
– 自分の考えや判断に自信がなくなる
– 相手の顔色を常にうかがうようになる
– 不安や恐怖を感じ、落ち着いて過ごせなくなる
– 眠れない、食欲がなくなるなど、生活リズムが乱れる
– 人と会うことや外出することを避けるようになる
– 仕事や日常生活に集中できなくなる
また、被害を受けた人の中には、うつ状態や不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神的な不調を経験する人もいます。
世界保健機関(WHO)も、女性に対する暴力が、うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害などのリスクを高めることを指摘しています。
こうした影響は、本人の性格や心の強さの問題ではありません。暴力という出来事や、安心して過ごせない環境によって生じる心身の反応として理解する必要があります。
そして、周囲の人が気づきにくいことにも注意が必要です。
普段どおりに仕事をしていたり、周囲と普通に会話をしていたりしても、本人の心の中では大きな不安や恐怖を抱えているかもしれません。
暴力が人の心に及ぼす影響を考えるとき、もう一つ大切にしたい視点があります。
それは、自分らしく生きるために必要な「自分で考え、選択する力」への影響です。
私たちは日々、さまざまな場面で自分の意思によって物事を決めています。
何を大切にするのか、誰と付き合うのか、どのような仕事をするのか、これからどのように生きていきたいのか。
こうした選択は、自分自身の価値観や希望をもとに行われるものです。しかし、暴力や支配的な関係の中では、自分の意思を自由に表現することが難しくなります。
例えば、
– 自分の希望を口にすると相手から責められるため、何も言わなくなる
– 自分で判断するよりも、相手の意向に従うようになる
– 自分の考えが間違っているのではないかと不安になる
– 自分の将来について考える余裕がなくなる
– 働き続けることや転職することなど、仕事に関する選択が制限される
といったことが考えられます。
こうした状況が続けば、自分が何を望んでいるのか、どのように生きていきたいのかを考えることさえ難しくなってしまうかもしれません。
キャリアとは、単に仕事や職業のことだけではありません。自分の価値観や希望を大切にしながら、自分の生き方を選択していくことも含まれます。
その意味で、暴力によって自分の意思や選択の自由が損なわれることは、その人のキャリアにも関わる問題だと考えています。
自分らしく生きるためには、安心して自分の考えを持ち、それを表現し、自分の意思で選択できる環境が必要なのです。
では、暴力に悩んでいる人や、被害を受けている可能性のある人に対して、私たちはどのように関わればよいのでしょうか。
まず大切なのは、本人の話を否定せずに聴くことです。
身近な人から相談を受けたとき、何とかしてあげたいという思いから、すぐに解決策を伝えたくなることがあるかもしれません。
しかし、次のような言葉は、本人をさらに苦しめてしまう可能性があります。
– 「どうしてもっと早く相談しなかったの?」
– 「すぐに別れた方がいい」
– 「あなたにも何か原因があったのでは?」
– 「気にしすぎじゃない?」
被害を受けている人には、相手から離れられない事情や、相談することへの不安、経済的な問題など、さまざまな背景があります。
周囲から見れば簡単に解決できそうに思えることでも、本人にとっては簡単なことではありません。
そのため、まずは話を聴き、本人の気持ちや意思を尊重することが大切です。
また、相談を受けた人が一人で問題を解決しようとする必要もありません。必要に応じて、DV相談窓口や性暴力被害者のための支援機関など、専門的な支援につなぐことも大切です。
何よりも、被害を受けた人に責任があるかのような言葉をかけないこと、本人の意思を無視して行動を強制しないことを意識したいものです。
女性に対する暴力をなくすためには、被害を受けた人への支援だけでなく、暴力を容認しない人間関係や社会をつくっていくことも必要です。
そのためには、相手を一人の人間として尊重し、その意思や価値観を大切にすることが欠かせません。
例えば、親しい間柄であっても、相手の行動や交友関係を一方的に制限することは許されません。
自分の考えを相手に押し付けたり、相手の意思を無視して物事を決めたりすることも、対等な関係とはいえません。
また、職場においても同じことがいえます。
役職や立場の違いがあったとしても、相手の人格や尊厳を傷つける言動が許されるわけではありません。
相手の考えに耳を傾け、互いの意思を尊重しながら関係を築いていくことが大切です。
暴力の根絶は、特定の人だけが取り組む問題ではありません。家庭や職場、地域社会など、私たちが生活するあらゆる場所で、一人ひとりが相手の尊厳を大切にすることが、その第一歩になるのではないでしょうか。
暴力によって心が傷ついた人が、再び安心して自分らしく生きていくためには、本人の努力だけでは解決できないことがあります。
安心できる環境を取り戻すこと、周囲の理解を得ること、必要な支援につながること。そして、自分の意思を尊重されながら、これからの生き方を考えられることが大切です。
2026年度の「女性に対する暴力をなくす運動」のメッセージは、「その不安を話すだけでもいいんです。」です。
相談することは、必ずしもすぐに何かを決断することではありません。すべてを話す必要もありません。まずは、自分の不安や気持ちを誰かに伝えることから始めてもよいのです。
もし、身近な人が悩んでいることに気づいたら、無理に答えを出そうとせず、安心して話せる相手になることを考えてみて下さい。そして私たち一人ひとりが、相手の意思や尊厳を大切にすることを意識したいと思います。
誰もが自分らしく生きることができる社会は、誰もが安心して過ごせる人間関係や環境の上に成り立つものだと考えています。

相談窓口
暴力に悩んでいる方、身近な人のことで心配されている方は、専門の相談窓口を利用することができます。
– DV相談ナビ:#8008(はれれば)
最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
– 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター:#8891
最寄りのワンストップ支援センターにつながります。
– 性暴力に関するチャット相談 Cure time(キュアタイム)
チャット、メールでの相談や、外国語での相談にも対応しています。毎日17時から21時まで。
– DV相談プラス
電話相談やチャット相談などを利用できます。
相談することに迷いや不安があっても、一人で抱え込まず、まずは話してみることも選択肢の一つです。
※差し迫った危険がある場合は、警察(110番)に連絡してください。