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正解のない時代にキャリアを創造する【第5回】 中小企業にこそ注目してもらいたい「人材版伊藤レポート」の要点

これまで本シリーズでは、「人的資本経営」の考え方や、その理解を深める上で参考となる「人材版伊藤レポート」をご紹介してきました。また、人材版伊藤レポートは主に大企業を対象とした内容ではあるものの、中小企業にとっても多くの示唆を含んでいることをお伝えしてきました。

今回は、中小企業の大きな課題の一つである「人手不足」に着目し、この課題に対するヒントが人材版伊藤レポートにどのように示されているのかについて考えてみたいと思います。

中小企業では「採用したくても採用できない」

現在、人手不足は中小企業だけでなく、日本社会全体の課題となっています。スーパーで増えているセルフレジ、飲食店で導入が進むタブレット注文、タクシー不足、さらには女性・高齢者・外国籍人材の活躍拡大など、私たちの日常生活の中でも、人手不足を意識する場面は増えています。

企業活動への影響については、例えば『中小企業の人手不足の実態〜現状、対応、人材確保の取り組み〜』(2026年5月 フォーバルGDXリサーチ研究所調べ)によると、調査対象企業の44.1%が「人手不足は経営課題である」と回答しています。

また、この課題への対策として多く挙げられた上位3つの方策は、次の通りです。

* 採用活動を行う(58.1%)
* 業務を外部委託する(32.2%)
* 離職防止・定着率向上(22.8%)

またこのレポートでは多くの企業で「採用活動」に取り組んでいる一方で、実際には「採用したいが採用できない」という状況に直面していることも伝えています。

人材版伊藤レポートが着目している視点

人材版伊藤レポートは、その名の通り「人材」に関する報告書です。しかし、その本質は、人を単なる「労働力」や消耗していく「資源」としてではなく、企業にとって価値を生み出す「資本」として捉えることにあります。つまり、人手不足という課題に対して、単に外部から人を補充するだけではなく、「今いる人に投資し、その力を最大限に活かしていく」という発想です。もちろん、企業が従業員に投資する(例えば従業員に能力向上や職務範囲を広げるための教育や訓練を受けてもらうことなど)ことによって、従業員数そのものを増やすことはできません。しかし、

* 一人ひとりの能力を高める
* 業務範囲を広げる
* 主体性を引き出す
* 生産性を向上させる

ことで、結果として人手不足に対応していこうという考え方です。このような人材版伊藤レポートの視点は、中小企業が現在取り組んでいる「離職防止」や「定着率向上」と深く結びつけられるはずです。

離職防止や定着率向上のために企業は何をすべきか

では、離職防止や定着率向上のために、企業は具体的にどのような方策を実行しているのでしょうか?まず、多くの人が思い浮かべるのは「賃上げ」でしょう。報酬は労働の対価であり、給与が上がることを歓迎しない人はほとんどいません。しかし、賃上げには限界があります。特に現在は物価高の時代でもあり、「賃上げが物価上昇に追いついていない」という報道も多く見られます。

つまり、企業が努力して賃上げを実施しても、その効果は報われないかもしれません。そして賃上げの喜びは労働者にとって、長期的に持続するものではないでしょう。賃上げで離職防止や定着向上を図るなら、物価高を上回る賃上げを、継続していくことが必要です。また、福利厚生や労働環境の改善も重要ですが、こちらも即効性はある一方で、その効果が時間とともに薄れていく側面もあるでしょう。

衛生要因は満たされても満足感は増大しない

なおこのような方策は「ハーズバーグの2要因説」においては「衛生要因」とされ、労働者にとって満たされない場合には不満になるが、満たされたからといって必ずしも満足感が増加するわけではないとされています。そして衛生要因に対して、働く人をより高い業績へと向かわせる「動機づけ要因」の重要性を述べています。そして動機づけ要因は、即効性よりもこの後にご紹介する「持続性」につながるものです。

人材版伊藤レポートが重視しているもの

人材版伊藤レポートが重視しているのは、即効性よりも「持続性」のある取り組みです。短期的に成果を求めるのではなく、時間をかけながら組織全体の力を高めていく――。そのような視点が特徴と言えるでしょう。そしてこの考え方は、人材版伊藤レポートで示されている「3つの視点(Perspectives)」と「5つの共通要素(Common Factors)」、いわゆる「3P・5Fモデル」にも表れています。

3つの視点(3P)

1. 経営戦略と人材戦略の連動
2. As is – To be ギャップの定量把握
3. 人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着

5つの共通要素(5F)

1. 動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化
2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
3. リスキル・学び直し
4. 従業員エンゲージメント
5. 時間や場所にとらわれない働き方

初めてこれらの言葉に触れる方にとっては、少し難しく感じられるかもしれません。また、感覚的にも「すぐに成果が出そう」という印象は持ちにくいでしょう。実際、3P・5Fモデルは即効性を重視したものではありません。

しかし私は、この「時間をかけながら、じわじわと組織に浸透し、効果が積み重なっていく」という性格こそが、本来の離職防止や定着率向上に必要な視点なのではないかと感じています。そして、この“長期的な視点”は、個人にとっての「キャリア」というテーマとも深く関わってきます。

まとめ

本コラムでは、中小企業が抱える「人手不足」という課題に注目し、人材版伊藤レポートから得られるヒントとして「3P・5Fモデル」をご紹介しました。

人手不足への対応というと、「どう採用するか」に意識が向きがちです。しかし、これからの時代には、

* 今いる人が力を発揮できるか
* 成長実感を持てるか
* 長く働き続けられるか

といった視点が、ますます重要になっていくのではないでしょうか。

次回は、この「3P・5Fモデル」の内容について、さらに詳しくご紹介していきます。

シリーズ「正解のない時代にキャリアを創造する」

【第4回】人材版伊藤レポートとは?人材版伊藤レポートとは? 人的資本経営時代に企業が向き合うべき課題

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