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シリーズ「実践に繋げるキャリア理論」【 第1回】キャリアコンサルティングにおける理論の役割とは|経験や感覚だけに頼らない支援のために

キャリアコンサルタント資格を取得した方、または現在資格取得を目指して学んでいる方にとって、「キャリア理論」は必ず学ぶテーマの一つです。

厚生労働省が認定するキャリアコンサルタント養成講習のカリキュラムにおいても、キャリアコンサルティングを行うために必要な知識として、「キャリアに関する理論」が位置付けられています。

一方で、キャリアに関する理論は数多く存在し、その一つひとつには長年にわたる研究の積み重ねがあります。

それぞれの理論を理解し、実際のキャリア支援に活かすためには、まず「そもそも理論とは何なのか」を理解しておくことが重要です。

今回は、キャリア理論を学ぶ前段階として、理論とは何か、そしてなぜキャリアコンサルタントが理論に基づいた支援を行う必要があるのかについて整理します。

理論とは何か?

普段何気なく使っている言葉でも、改めて意味を説明しようとすると、十分に理解できていなかったことに気付くことがあります。「理論」もその一つではないでしょうか。

理論(theory)について説明する際には、「体系的」「法則的」「現象を理解する」「知識を整理する」「筋道を立てる」といった言葉が多く使われます。

また、理論という考え方はキャリア分野に限ったものではありません。化学や物理学など、さまざまな学問分野において、現象を理解し説明するために理論が用いられています。

では、キャリア支援における理論とは、どのようなものなのでしょうか。

理論を現象・事実・概念との関係で理解する

キャリア支援の分野における理論について渡辺三枝子氏は、國分康孝氏の説明として、理論が形成される過程について次のように紹介されています。

人間世界における現象(phenomena)が、研究者によって、『事実(fact)』『概念(concept)』『理論(theory)』へと昇華されていく(1)

《参考文献》
(1)渡辺三枝子編著. 新版キャリアの心理学〔第2版〕キャリア支援への発達的アプローチ.ナカニシヤ出版,2018, 4p.

つまり、私たちの日常で起こる出来事が「現象」であり、研究や分析によって確認されたものが「事実」となります。

さらに、複数の事実から共通する特徴を見出し、整理したものが「概念」です。そして、複数の概念を関連付け、その関係性を体系的に説明したものが「理論」になります。

現象から理論へ発展する流れ

理解を深めるために、身近な例で考えてみます。

例えば、ある親が「最近、子どもが勉強しなくなった」と感じたとします。

これは、親が目にした一つの出来事であり、「現象」です。

そこで、その背景を理解するために子どもの様子を観察すると、

・以前より学習時間が減っている
・分からない問題が増えている
・勉強について否定的な発言が増えている

といった状況が見えてきました。

これらが、観察によって確認された「事実」です。

さらに、同じような状況にある子どもを調べていくと、

・できるという感覚が低下している
・学習への意欲が低下している
・成長したいという欲求が満たされていない

など、共通する特徴が見えてきます。

このように、複数の事実から共通点を見出すことが「概念化」であり、見出されたものが「概念」です。

そして、これら複数の概念同士の関係性を説明しようとすることで、「理論」が生まれます。

例えば、人の成長や動機づけを説明する理論として、マズローの欲求階層説やバンデューラの自己効力感理論などがあります。

理論はどのように役立つのか

では、キャリアコンサルタントにとって、理論はどのような意味を持つのでしょうか。

理論の紹介でも引用した『新版キャリアの心理学〔第2版〕キャリア支援への発達的アプローチ』では、理論の役割として次の3点を挙げています。

  • 理論は結果の予測可能性を向上させるものである
  • 理論はキャリアカウンセラーが遭遇した現象や事実を説明、解釈、整理する手掛かりとなる
  • 理論は仮説を生み出すための基盤となる
  • これらは、キャリアコンサルタントが専門職として支援を行うための重要な基盤になります。

    キャリアは極めて個人的なもの

    なぜこの3つが、キャリアコンサルタントにとって重要な基盤になるのでしょうか?

    キャリアとは、一人ひとり異なるものです。過去の記事では職業とキャリアとの違いについて、職業は単独で存在しうるのに対して、キャリアは個人から切り離して存在し得ないことをお伝えしました。

    そのため、ある人に効果的だった支援方法が、別の人にも同じように効果を発揮するとは限りません。

    もちろん、経験豊富な上司や先輩、育成能力に優れた管理職など、組織の中には優れたキャリア支援者が存在します。

    しかし、その支援が特定の経験や直感に基づくものであれば、異なる環境や背景を持つ相談者にも同じように対応できるとは限りません。

    一方、キャリアコンサルタントには、年齢、経験、価値観、置かれている環境が異なるさまざまな相談者を支援することが求められます。その際に支援の土台となるのが、キャリア理論です。

    理論とはそもそも、概念→事実→現象から見出されたものであることをご紹介しました。一つの理論が誕生する背景には、数多くの現象があります。

    そして理論は学術的であるという理由で、目の前の相談者を型にはめるためのものではありません。

    相談者が抱える悩みや経験を理解し、その背景にある可能性を考えるための専門的な視点なのです。

    万能のキャリア理論はない

    ここまで理論がどのようなものであり、キャリアコンサルタントにとって必要不可欠であることを学んできました。

    あわせてとても大切なことは、万能のキャリア理論は存在しないということです。

    繰り返しになりますが、キャリアは人それぞれであり、また時代背景や環境からも大きな影響を受けるものです。

    その全てに対応できるキャリア理論は、少なくとも現時点では存在しません。恐らく今後も登場しないと考えられます。

    目の前にいる相談者に対して、拠るべきキャリア理論を選択するのは、キャリアコンサルタントに委ねられています。

    選択する理論に正解・不正解はなく、選択した理論に応じた支援を見出すこともできるのだと思います。

    まとめ

    今回は、キャリア理論を学ぶ前段階として、「理論とは何か」、そしてキャリアコンサルタントが理論に基づいた支援を行う必要性について整理しました。

    理論とは、現象から始まり、事実を整理し、概念化することで生まれた、人を理解するための知識体系です。

    キャリアコンサルタントに求められるのは、キャリア理論を暗記することではありません。

    理論を活用しながら、目の前の相談者をより深く理解し、その人に合った支援を考えることです。

    比較的短期間のキャリアコンサルタント養成講座からキャリアコンサルタント試験に挑む際には、理論のポイントを暗記することになるでしょう。

    しかしマークシート方式の試験で正解が得られたとしても、それだけで支援を必要としている人の力になるものではありません。

    資格を取得してからも、ひとつ一つの理論について、じっくりと学んでいきたいものです。

    次回からは、具体的なキャリア理論を取り上げて、理解を深めていきます。

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