
シリーズ「好き嫌い」でつながるキャリアと経営【第4回】会社は「自分のキャリアをつくる場所」でもある
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会社に就職すると、私たちはその会社の社員になります。
会社には経営理念があり、事業の目的があり、社員にはそれぞれの役割が与えられます。
そのため、「会社のために働く」という考え方は、当然持つべきものです。
しかし、自らのキャリアという視点から考えると、もう一つの見方ができるのではないでしょうか。
会社は、自分自身のキャリアをつくるための場所でもある。
今回は、そんな視点から「好き嫌いを社会の価値へ」というテーマを考えてみたいと思います。
前回のコラムでは元ヤフー株式会社社長である宮坂学氏の「みんな株式会社『オレ』のCEOなんだ」という言葉をご紹介しました。
宮坂氏は、自分が自分らしく生きるために、自分自身の経営者になるという発想を示しています。
この「株式会社『オレ』」という概念は、仕事だけではなく、プライベート・家族や趣味なども含むものです。
宮坂氏は自身の株式会社『オレ』の中に、家族・お友達事業部、お仕事事業部、アウトドア事業部(アウトドアは宮坂氏の趣味)の3つの事業部を設け、どの事業部にリソースを割くかは時期によって変えていくものだとしています。
そして3つの事業部というポートフォリオを見ながら意思決定していく点は、経営だと一緒だとしています。
会社は人生のすべてではない。
「お仕事事業部は、ほぼ消滅する」という言葉も、人生をどう生きるのかについて、考えさせられるものです。
仕事も人生を構成する一つの事業であり、家族や趣味なども含めて、自分の人生全体を経営していく。
私は、この考え方はキャリアを考える上でも、とても示唆的だと思います。
《参考図書》
蛯谷 敏著.爆速経営 新生ヤフーの500日.日経BP社,2013年
私たちは、会社を「働いて給料をもらうための場所」だと考えがちです。
もちろん、それは会社の重要な役割です。
しかし、会社で働くことで得られるものは、それだけではありません。
仕事の経験を積む。
専門的な知識や技術を身につける。
人との関わり方を学ぶ。
責任のある仕事を任される。
新しいことに挑戦する。
誰かの役に立つ喜びを知る。
こうした経験は、すべて自分のキャリアを形づくっていきます。
そう考えると、会社は「自分のキャリアを育てるための環境」とも言えるのではないでしょうか。
「会社を利用する」と聞くと、少し嫌な印象を受けるかもしれません。
しかし、ここでいう「利用する」とは、自分勝手に会社を使うという意味ではありません。
会社が提供している仕事、経験、教育、人的ネットワーク、挑戦する機会などを、自分の成長のために活かすということです。
例えば、
「この仕事を通じて、専門性を身につけたい」
「このプロジェクトに参加して、新しいことに挑戦してみたい」
「人をまとめる経験をしてみたい」
「お客様と関わることで、自分の得意なことを見つけたい」
そんなふうに、自分のキャリアという視点から会社を見ることもできます。
会社から与えられた仕事を、ただこなす。
それだけではなく、
「この仕事を、自分のキャリアにどう活かすか」
と考えてみるのです。
ここで注意したいのは、「自分のキャリアのために会社を利用する」という考え方が、会社の利益と対立する必要はないということです。
むしろ、個人が成長することが、会社の成長につながるということです。
社員が専門性を高めれば、会社のサービスの質が上がる。
社員が新しいことに挑戦すれば、新しい事業が生まれる。
社員が人を育てる力を身につければ、組織全体の力が高まる。
個人の成長と組織の成長は、本来、どちらか一方を選ぶものではありません。
両者が重なり合うところに、新しい価値が生まれます。
ここで、これまでのコラムで考えてきた「好き嫌い」に戻ります。
自分は何が好きなのか。
何を面白いと感じるのか。
何を大切にしたいのか。
反対に、何を避けたいのか。
そうしたことを知っていると、会社で与えられた仕事や機会を、自分のキャリアと結びつけて考えやすくなります。
例えば、人と話すことが好きな人なら、顧客との接点を増やすことで自分の力を発揮できるかもしれません。
新しいことを考えるのが好きな人なら、新規プロジェクトに挑戦することで力を発揮できるかもしれません。
一つのことを深く掘り下げることが好きな人なら、専門性を高める仕事が自分の強みになるかもしれません。
もちろん、好きなことだけをやればよいわけではありません。
会社には、本人が好きではない仕事もありますし、好きではない仕事の方が多いのかもしれません。
組織として必要だから、取り組まなければならないこともあります。
だからこそ、「好き嫌い」と「会社から求められること」を、どのようにブレンドしていくかが重要になります。
宮坂氏は会社のことを「従業員がキャリアを築くプラットフォームである」とも表現しています。
プラットフォームとは、さまざまな活動が生まれる土台となるものです。
会社には、仕事があります。
人との出会いがあります。
経験を積む機会があります。
挑戦する場があります。
そして、それらを通じて、一人ひとりが自分のキャリアをつくっていく。
そう考えると、経営者の役割も少し違って見えてくるのではないでしょうか?
経営者は、社員のキャリアを決める人ではありません。
社員一人ひとりが、自分のキャリアを考え、挑戦し、成長できる環境をつくる人でもあるのではないでしょうか。
松下幸之助氏が次のように語った意味も、この点にあるのだと感じます。
松下電気は何をつくるところかと尋ねらたら、松下電器は人をつくるところです。併せて電気器具も作っております。
出典:PHP人材開発『ものをつくる前にまず人をつくる〜松下幸之助の人材育成』
会社のために働くことと、自分のキャリアのために働くこと。
この二つは、対立するものではありません。
会社から与えられた役割を果たしながら、その経験を自分自身の成長につなげる。
自分の好き嫌いや価値観を活かしながら、会社や顧客、社会に価値を提供する。
その両方をいかに目指していけるかについて、個人と組織が取り組むべきなのだと思います。
前回のコラムで、私は「社員にも人生の経営理念がある」と書きました。
会社にも経営理念があり、社員にも自分なりの人生の理念がある。
その二つが出会う場所の一つが、職場なのかもしれません。
職場で出会った二つの価値観を、いかにブレンドできるかが組織にとっては会社経営の、個人にとってはキャリアデザインの本質なのでしょう。
好き嫌いは、自分のためだけにあるものではありません。
自分が好きだと思えること。
自分が大切にしたいと思えること。
それを仕事を通じて磨き、誰かの役に立つ形に変えていく。
そこではじめて、自分の「好き嫌い」を社会の価値につなげていくことができます。
だから私は、
「好きなことを仕事にすればいい」
とは言いません。
そうではなく、
「自分の好き嫌いを知り、それを社会の中でどのように活かせるかを考えてみよう」
と伝えたいのです。
会社は、そのための大切なプラットフォームになり得ます。
では、会社で働く私たちは、具体的にどのようなことを組織から期待されているのでしょうか。
次回は、「会社から期待される役割」という視点から、個人の好き嫌いと組織からの期待をどのように重ねていくのかを考えてみたいと思います。
「好き嫌い」でつながるキャリアと経営